通訳ガイド当校合格者薄井 裕さん
2011年度通訳ガイド試験当校合格者

<自己紹介>

富士アカデミー卒業の多くの合格者の方々は、入校される前までは英語と深く結びついた仕事や生活をされておられます。たとえばお仕事で長期海外出張や滞在などの経験をお持ちだとか、英語でお仕事をされておられるなど、華々しい体験をお持ちの方がほとんどでいらっしゃいます。
私は英語に関しては、そのような輝かしい経歴など無縁の仕事をしてまいりました。富士アカデミーに来る前までは本屋をやっておりました。このことについては、既に英検の合格体験談のコーナーで体験談を書いたという前科があります。
したがってその部分と重なることになりますので私の個人的な紹介には多くは費やしませんが、富士アカデミーに入校するまでは英語とは無縁の生活をしていたということをお伝えしておきます。本屋をやめるとき次のステップとなる第2の人生を模索していたのですが、まるで根拠もなく「通訳ガイドもいいかな」などと思ってしまいました。
いざガイドの勉強を富士アカデミーでスタートしたら、それは想像した以上に険しくしかも長い道のりになってしまいました。
それは長すぎて、第2の人生が時間切れになってしまうのじゃないか、と思ってしまうほど長いものになってしまいました。
ですから今回の合格は、その長い時間のドロ沼で?(もが)いている中で夢中で知念先生の腕につかまり、そして先生にグーッと引き上げてもらった、といった感じのものでした。
そのような私ですから試験の攻略法などを報告すると言うような立場ではありませんし、ましてや合格体験談を語るのには烏滸(おこ)がましいと思っています。しかし合格の発表後に、富士アカデミー主催によるガイド研修に参加させていただいた際、今後ガイドの仕事をしていく上でとても自信につながりそうな、そして絶対に役立つと思われるような体験をさせていただきした。それはまた、中学校の修学旅行以来体験したことのない、楽しい思い出旅行ともなりました。
そこで晴れがましい合格体験談は他の多くの方々に譲ることにして、私はその楽しくてとても充実していた富士アカデミー主催による研修についてお伝えしたいと思います。

富士アカデミー主催によるガイド研修

それは合格の発表後2週間もたたないうちに行われました。
全5日間の行程で、今回の研修の参加者は8名、最終日は昨年合格された方が2名参加され、最初の8名の中から1名が欠席して総数9名という変則的な参加者たちの顔ぶれになりました。


まず初日ですが、この日だけは1日中教室内での講義で、知念先生、当校卒業生の代表的存在で現役「はとバス」のガイドの橋爪舞インストラクター、同じく卒業生の「顔」的存在の河野貴代美インストラクターのお三方から交互にレクチャーを受けました。最初の知念先生の講義は通訳ガイドについての一般的な有様についてでした。先生のお話は、大変貴重な情報ですがこちらは少し安心感もありついでに緊張感も溶けてきて頃でふわふわと夢見心地となりそうになったときに、河野インストラクターとバトンタッチ。こちらは現役バリバリのガイドをやっていらっしゃるので、急に緊張感が漂い始めました。
河野インストラクターの口から、怒涛のように現場の情報があふれ出し、どのひとつをとっても見逃すことのできない重要な情報が、ドドーンと押し寄せてまいりました。
ありあまる情報の大波をすべて受け止めることができない自分に、もどかしさを感じてしまいました。
河野インストラクターのレクチャーの興奮が冷めるやらぬ間に、次は橋爪インストラクターの講義が始まりました。
橋爪インストラクターの専門は「はとバス」のツアーですので、主に団体客を相手にしたガイドがレクチャーの中心となりました。私は時々ですが町内会が主催するような「温泉バスツアー」のようなものに参加しますので、団体ツアーのガイドというものがどのようなものか凡そ想像がついています。ですが、違うのは橋爪インストラクターの英語によるガイドのパフォーマンスです。「実際にはこんな具合に英語でガイドをします。」と、橋爪インストラクターは見本となるしゃべり方をしめしてくれました。インストラクターがしゃべり始めたとたん、教室の空気が一変しました。
それは聞く人をうっとりとさせてしまう美声、心地よいリズミカルなピッチ、それにまるで歌でも歌っているような立て板に水の怒涛の英語力とそこに展開される美しい説明情報、私は完全に圧倒されてしまいました。
参加者の誰もが呆然としていた、と思っています。
橋爪インストラクターのパフォーマンスはそれほど凄かったのですが、その後は知念先生の講義に戻り、私の興奮は収まり、現実的なレクチャーの再開となりました。先生のおかげで浮ついた気分にもならず、きちんと講義の内容は受け止めることができたと思っております。


2日目と3日目がとても幸運だったのは、この2日間、橋爪インストラクターによる完全ツアーガイド研修のバス旅行だったことです。2日間、インストラクターの心地のよいガイドのパフォーマンスを体験することができたのですが、はっきり言って初心の私にはまるで参考になりません。私には無理です。
橋爪インストラクターは、ガイドは楽しい仕事であると同時に大変厳しい面もあることを、この研修の間に示してくれました。それは皇居の東御苑でのことです。天候は最悪でした。滝のような雨の中、足元は急流の浅瀬の川を歩くような状況で、東御苑のガイドの研修が始まりました。
どんなに悪天候であろうとも、ツアー客のなかに一人でもガイドを希望する人がいればその人のためにガイドを強行するというものでした。それはプロとしての心構えを見せつけられた思いでしたが、おかげで研修終了後は、参加者の中には私をふくめて3人くらいカゼで寝込んでしまいました。私はガイドの厳しさを身をもって体験しました。
3日目は日光でしたがそこまでの到着の間、バスの中で参加者全員が模擬のガイドをマイクを持ってすることになりました。
バスの中はもちろん雨は降りませんが、私は全身が濡れてしまったような状態になりました。


4日目は、原先生による鎌倉・箱根のバスツアーでした。
原先生からは橋爪インストラクターのロールモデルのような美しいガイドではなく、実質的なガイドのやり方というのを教わりました。ガイド中の様々なトラブルの対処法や、アクシデントの際の実質的な旅行行程の修正など、「現場で役に立つ」情報をたくさんレクチャーしてもらいました。私には大いに役立ちそうな情報が盛りだくさんでした。
箱根の大涌谷で、それまで仲良しになった参加者のひとりから「温泉タマゴ」を1個いただきました。このときの原先生のギャグを、今後は私もチャンスがあれば使わせてもらおうかなと思っています。それは、「温泉タマゴを1個食べると7年寿命が伸びます、2個食べると14年です。3個食べるとお腹をこわします。」という楽しいギャグです。
先生はバスの中でも退屈しのぎに奥さんとの不仲のことなどを英語ギャクにして笑わせてくれました。でもときどき、これはもしかしたら冗談ではないのかもしれない、と思ってしまうところもありました。


5日目は、初日にも講義をしていただいた河野インストラクターによる成田へのバスツアーでした。
午前中は成田空港でした。空港内を見てまわり、実際に海外の旅行客を出迎えたり見送ったりするときのための下調べですが、ここで河野インストラクターから現役ガイドならではの生きた情報をたくさん伝授していただきました。
私は海外客の送迎の仕事を希望していますので、河野インストラクターの情報はとても貴重なものとなりました。
午後からは成田山新勝寺に出かけました。ここで半日をかけて、河野インストラクターは非常にキメの細かいガイドのお手本を披露してくださいました。
「今日は新勝寺だけ限定して説明しますが、このガイドのやり方はほかの全てのお寺や神社をガイドをするときに参考になると思います。」と言いながら、境内の中の本堂や仏舎利、そして周りの木々の説明までこと細かく説明してくださいました。
私は懸命になってメモをとっているところへ、「ハイ、今度はアナタが実際にガイドになってなにかしゃべってください。」と河野インストラクターから提案がありました。参加者全員、その時凍りついたように青ざめた顔になったのは寒さのせいだけではない、と感じました。
ときおりそのような苦行ともいえるような試練などもあったからこそ、今回の研修はより一層心に残る経験となりました。
最終日の最後は、本当にほんとうに楽しい「打ち上げ会」がありました。
今回の研修旅行は、どんなに高いお金を払って参加した旅行よりも遥かに楽しい思い出となる研修でした。
このようなとてもすてきな研修を企画していただいた富士アカデミーのスタッフの皆さんに深く感謝いたします。


最後にとって付けたように申し上げますが、私のような英語の実績のない者でも、富士アカデミーに席をおかせいただいたことで通訳ガイド試験合格と言う、思ってもみなかった希望がかないました。
知念先生、本当にありがとうございました。