通訳ガイド当校合格者誉田卓也さん
2015年度通訳ガイド試験当校合格者

<自己紹介>

30年以上に及ぶ会社生活のうち、直近の数年間を除いてその大半の期間海外営業に携わり、海外駐在生活も10年近くを経験したが、私自身は帰国子女でもなければ学生時代語学を専攻したわけでもない所謂完全な‘Made in Japan’で、外国人と話すことは全く抵抗がないものの、英語力としては日本人の中でも平均レベルでそれ以上でもそれ以下でもなかった。会社での初めての海外営業担当地域が中近東・アフリカ地域でそこで鍛えられ、お蔭で世界中どこでも1人で出張し、誰とでも話ができる度胸は付いたが、英語nativeの現地人と仕事をする機会は殆どなく英語はなかなか上達しなかった。今思えば貿易実務に必要な英語のみで何とか仕事がこなせることで満足をしていたように思う。仕事柄来日する顧客を接待、観光案内する機会はそれなりにあったが、英語力以前の問題として、自分の母国や文化に対する無知をいやというほど思い知らされることとなる。かつて通訳ガイドと称していた通訳案内士という資格の存在を知ったのは30歳代半ばだったと思うが、合格率が数パーセントしかない超難関資格と知り、かつ当時は勉強する時間もなかったので即諦めたのを覚えている。20年以上忘れていた通訳案内士という言葉に再び巡り合ったのが、平成26年の秋のことであった。第二の人生もそろそろ考えなければいけない時期に差し掛かり、いろいろ調べている中で偶然見つけたのだが、2020年に東京オリンピックを控え、国策として通訳案内士を増やそうという動きが出ていることを知り、あまり深く考えることなく富士アカデミーの説明会に参加、その場で申込み通訳案内士試験を目指すことになった。

1.1次試験英語対策

学校には入ったものの、さて何をどうやって勉強していいのか皆目分からず、まずは富士アカデミーの先生方と教材を信じて授業だけは真面目に出席していた。しかしながら、単語・熟語は覚えた単語が翌週には半分以上は忘れてしまっていたり、精読用英文に至っては英語力もさることながら、英文和訳の際の日本語力の無さと語彙不足に愕然としたり、日本文化・日本事象英文説明テキストの宿題まで手が回らずに、読むだけで小テストが終わればそれっきり、ということで自分の中に蓄積を実感できない状態が暫く続いた。
試行錯誤の結果、自分なりに工夫した勉強は下記の通り。

(1)精読用英文:教材のプリントは一つのトピックについて四分割され、授業で一つずつ精読を行う形を取るが、一つ一つを辞書と首っ引きで訳すという方法をやめ、最初に配布されたときに時間を決めて全部を通読し、極力辞書を使わないで全体の流れが分かるまで繰り返し読み込んだ上で、段落ごとの日本語訳を考えるという手順を取った。英語については平成27年度から全てマークシート方式となったが、読解力を試しかつ骨のある長文問題は必ず出題されるので、結果的にはこの方法が良い訓練になった。もう一つ重要なことは、復習の際に音読を心がけたことで2次試験にも繋がったのではないかと思う。

(2)小テスト:毎授業時行われるこのテストは、限られた時間内で解答し、基本事項を確認できるという意味では意義あるものだが、もう一つ、日本文化・事象に関する外国人の興味深い視点や考察を知ることが出来るので毎回楽しみにしていた。実はこの小テストの英文は長さにすると丁度2次試験の口述試験のプレゼンテーションに匹敵するので、そのネタとして自分の考えを入れてストックしておくと2次口述試験対策にもなる。これは毎回宿題となる日本事象テキストのトピックも同様である。2次試験まで見据えた場合、この日本文化・事象のインプット作業を1次準備の段階から十二分に意識しておくことが何よりも重要である。また、音読の重要性も精読用英文と同じである。残念ながら自分としては十分に活用できたとは言えないのが反省点だが、素材を最大限活用する一つの有効な方法だと思う。

(3)単語学習法:ある時に、教材の精読用英文や小テストで出てきた分からない単語を辞書ではなく、教材の必須単語集で調べてみたら、載っているものが意外と多いことが分かり、それらを中心に文脈と共に覚えるようにした。暫く続けていると日本事象の頻出単語はだいたい決まっていることも分かってきた。邪道かもしれないが、通訳案内士だけを目指す方には効果的な単語学習法ではないかと思われる。但し、英検1級も目指す方は、残念ながらこの単語集で無視していい単語は一つもないので要注意。また、岩渕先生の授業では、関連ある単語やイディオムを具体的に例文の中で数多く例示して頂けたので、大変参考になった。

2.1次試験社会科対策

社会科は学生時代から比較的得意科目にしていたこともあり、最初は少し甘く見ていた部分は否めない。最後の一か月くらいで追い込めば何とかなるという考えは結果的には通用せず、1次試験は社会科1~2科目で落ちたかと覚悟したほどである。結果的には何とか合格したものの、社会科は今回の通訳案内士試験の最大の反省点である。
富士アカデミーの授業で頂くプリント教材は非常によく纏まっているので、これを繰り返し読み込むことで基本的なことはカバーできる。今年度は難問、奇問が多かったことは事実だが、合格ラインは全体の平均点で毎年変わるので、取るべき問題を落とさないことが重要。プリント以外の補助教材は下記を使用した。

歴史:山川出版の「詳説日本史図録」を教科書以上に愛用した。外交史や特に文化史に関する写真は100%網羅されている上に、図表や地図なども視覚的に解りやすく整理されているので、教科書と併用するとより理解が深まる。

地理:旅行会社の全国各地の旅行パンフレットは日頃から関心を持って目を通しておく。とりわけその年のブームとなっている観光地は要チェック。例えばNHK大河ドラマの舞台となる地域で、平成28年度で言えば真田家ゆかりの地信州・上田とその周辺等。また、当該年度の「観光白書」、特に外国人観光客のインバウンドに関わる部分は数字も含めて全て重要なので、試験直前まで繰り返し確認しておく。

一般常識:主要新聞の記事をジャンルごとに整理した月刊「新聞ダイジェスト」はお薦め。大手書店で販売されているが、就活でも使われるので早めに買わないと売り切れの可能性あるので要注意。新聞記事の中で、外国人観光客に関する記事は最低限必ず押さえること。後々「観光白書」に出てくるものが先出しで記事になっていることが多い。また、二次口述試験で出題されるプレゼンのトピックも時事問題が増えているので、政治・経済から社会、文化、スポーツ等、ジャンルに関係なくありとあらゆることに関心を持ちアンテナを高くしておくことが重要。

3.2次試験対策

2次試験の準備は既に1次試験の準備段階から始まっている。2次口述試験の通訳問題もプレゼンテーションも共に「output」の試験であるが、正しく「output」するためには、正しく「input」しておかねばならない。具体的には、1次対策英語の授業で勉強する、精読用英文、小テスト、その中でやる英作文、日本文化・事象学習全てが「input」作業であることを意識した学習が何より大切である。また、1次試験終了後から合格発表までの2ケ月半の間、1次試験の結果が気になって何も手につかなくなり無為無策に日々過ごしがちなので、どう気持ちを切り替えて二次準備へ向かうかが特に重要である。

1)プレゼンテーション対策:富士アカデミーの2次対策講座では、個別日本事象をnative講師とQ&Aを通して整理、知識の再整理が出来るので、これを活用し、本番に出そうだと思われるアイテムについては200words程度のプレゼン案にしてストックしていくと良い。但し昨今の傾向として、純粋の日本事象だけではなく、時事問題からも出題されるので、学校の教材プラス予想問題を広げて準備しておく必要がある。また、無理やり英文を暗記しようとするのではなく、トピックごとに話すことを3つくらいのポイントで絞って整理しておく。

2)通訳問題対策:今年度は日本文が昨年より全般的にまた長くなった印象がある。ここで出題される日本事象や日本文化は、1次試験までの「input」がものをいうことになる。 個人的意見だが、この試験は通訳資格を持った方以外はあまり評価に差が付かないので、ここで出来が芳しくなくても、切り替えてプレゼンに臨むことが大事ではないかと思われる。また、読まれた日本文を逐一訳そうとするのではなく、ポイントを数点に絞り外国人観光客を相手に重要な情報を伝える、という感覚でやると良い。大切なことは、多少細切れになっても情報を正しく伝えることにあると思う。いずれにせよ通訳はメモの取り方がポイント。個人的には大の苦手で、最後まで、また本番でも苦しんだ部分である。

3)直前2次面接実戦練習:1ケ月前からは実戦練習を数多くこなすのみ。富士アカデミーでも直前の通訳・プレゼン演習講座は準備されているが、スケジュールが合わず思うようにコマ数を確保できない、あるいは、自分で実践がまだ不十分だと思えば他校の直前講座であっても本番ぎりぎりまで積極的に受講すべき。失敗したり恥をかいたりも全てこの実戦練習で経験しておくこと。2次合否のカギは、内容の正確さよりも、特にnative面接官とのコミュニケーションがキチンと取れているかどうかが重要なので、いくら英語が正確でも自分本位の一方的なプレゼンでは評価されないので要注意。また、繰り返し悪戦苦闘することで、想定していなかった問題への対応方法のコツやメンタル面での注意事項等自ずと分かってくるようになる。

4.これから受験される方へのアドバイス

(1)試験後の気持ちの切り替えを!
現行の通訳案内士試験制度は年1回であり、出願から最終合格発表までの期間が約9ケ月と長丁場である。1次試験終了後から1次試験合格発表、2次試験終了後から最終発表までの期間が、それぞれ二か月半、2ケ月と非常に長い。私もそうであったが発表まで時間があればあるほど余計なことを考えてしまい、次の準備にもなかなか身が入らない。特に1次終了から合格発表までの期間が一番難しいが、ここで1次の出来栄えをいかに早く忘れて2次の準備に向かうかが鍵となる。観光庁が発表している合格最低点はあくまで目安であり毎年難易度によって変わる。くれぐれも自分で合否を決め付けないことが重要。

(2)富士の教材を使い倒す!
授業一つ一つで使用する教材はそれほど多くはないが、私の場合年間コースの12月入校生だったので、学習した教材は本番が近づくにつれ膨大な量になる。1次試験前に精読用英文、小テスト、日本事象、英作文など全て1度2度復習することで知識の定着を図ると同時にこれだけやったという自信が生まれる。そして一次試験で勉強したことは2次試験でも役に立つ部分が多くこの2つは別物と考えないこと。

(3)他流試合は重要です!
富士アカデミーが7月に行う模擬試験も公開だが、他校も公開模試を実施するところがある。また、英語に関しては、富士アカデミー含め殆どの学校が、1次直前、2次直前にも通常年間コース以外に公開で短期講座を実施しているので、可能であればこれらを積極的に受けることをお薦めする。他流試合を通じて別の視点から自分の弱点のみならず、受験生全体の中でのポジションも把握する機会となる。本番で受験するのは富士アカデミーの生徒だけではないことに注意。但し、基本となる富士アカデミーの授業・教材をおろそかにしないこと。富士アカデミーの授業を普段の練習・鍛練、他校の模試や短期講座を本番と位置付けて取り組むと本試験に向けての良きシミュレーションとなる。

5.富士のよかったところ

富士アカデミーの良さは、生徒さんもそれほど多人数ではなく和気あいあいとした雰囲気で、先生方も事務局の皆さん方も大変面倒見が良く、全体的に家庭的なところが最大の魅力だと思う。また、教材ではとりわけ英語の1次対策授業の精読用英文と小テストの英文は、個人的には大変気に入って試験直前まで何度も繰り返し読み込んだ。
1年間にわたって週2回この学校に通った日々はあっという間で、終わった今は一抹の寂しさを感じている。
通訳案内士の勉強を通じて、会社生活だけでは経験出来ない様々な方とお付き合いの機会を頂いたことは、必ず今後の財産となるものと確信している。