通訳ガイド当校合格者佐々木博文さん
2016年度通訳ガイド試験当校合格者

<自己紹介>

もともと仕事べったりの生活から離れて、ボランティアでガイドをしてみようかなという気持ちは漠然とはしていたがあるにはあった。が、そもそもガイドをするのにライセンスが必要で勝手にやることは違法であるということを知ったのが2016年の2月くらいであったと思う。ネットを見る限り、その試験はかなり難しいと書いてあった。勉強するのは最終的には自分なのだからとはいっても、独学だけでは何年かかるかわからなかったので、2月の終わりで冷たい雨が降っていた土曜日であったとは思うが、富士通訳アカデミーの門を叩いた。印象はアットホームな感じであった。英語に関しては大学受験のときも一番足をひっぱった教科でずっと苦手意識があったし、皮肉なことに苦手意識は今もあまり変わらない。会社に入る前もこれからはグローバル化で英語が必要であると聞かされ、英会話学校に行ったり、TOEICの試験を受けたりしたが600点ちょっとくらいだった。その後、会社では開発部門にいたときが長かったので英語とはほとんど無縁の生活を送っていたが、ふと自分が開発した機械がお客さんにどう使われているのか自分でみたくなってカスタマーサービスの部門に異動した。そのころから外国の販社に出張したり、メールのやりとりをしたりする機会が増えて、今まで適当にその場しのぎでごまかしてきた英語に対する姿勢を反省するようになった。TOEICも新形式になっており、TOEICの専門学校に1年ちょっと通った。富士通訳ガイドアカデミーに似てストイックな学校であり(?)いろいろと勉強になった。890点くらいでお金もかかるし、もともと勉強が嫌いなのでやめた。あれからTOEICの勉強はしていない。仕事柄、海外出張とか、外国人を日本に呼んでの会議とかはやっていて、会議の間とかDinnerとかは連れて行っていたが、土日を挟む会議の時などには浅草とスカイツリーとか江戸博物館とかを案内することもあった。去年の1次試験が終わって2次試験の勉強をしている10月頃に、会議が終わったあと京都に行きたいというのでドイツ人2人を京都と奈良に連れて行った。

1.1次試験英語対策

TOEICで免除だったが授業は受けていた。知念先生の授業も岩渕先生の授業も英語の授業としては私が受けた授業では最高峰のものだった。小テストも2次試験の授業が終わったあとに通常の授業に戻った時にはじめて2次試験に役に立つ内容であったことに気が付いた。しかしながら、数週間後に2次試験の面接日を迎えていた。

2.1次試験社会科対策

<地理>
地理は古典的な地理と現代的な地理があるというと変だが、その年度で試験に出やすい、はやりのような地理に大きく分けられる。前者は山とか川とかの名前とか国立公園とかで、後者は世界遺産、日本遺産、農業遺産、ジオサイト(これもネットでいろいろ書いてあるが、ご当地自慢になっているので正直細かすぎてどこまで覚えたらよいのかよくわからない。)で年々増えている。テキスト以外のところからは出ないとは言えないが、そんなことまでやる時間も暇もないのと、富士通訳ガイドアカデミーのテキストは先生が研究熱心で細かいためか、かなりマニアックなところまでついてくるので、それ以外のことはすてて、出ているところだけをネットで調べてイメージで覚えるように努力するしかないと思う。実際の試験は癖があるのと、あたりはずれというか運、不運があるので普通の人は高得点は狙えずに微妙な判定勝ちに持ち込むことになることが多い。基本的には地理なので地図とネットでvisual的に覚えようとしないと範囲が多いので記憶に残らない。合格後の今では、8月の1次試験で覚えていたことの半分も覚えていないのが現実である。
あと最近は観光地にからんだ問題が多い。官公庁のホームページでは新ゴールデンルートという新ルートが地元の観光団体の協力のもと開発されたが、現実的にはゴールデンルートが主で最近では高山から金沢を抜けるルートとか、クルーズ船対応のそれぞれの港の周辺のルートは増えていると聞いた。北海道も面白いが特に瀬戸内海を車とかフェリーで行ったり来たりするウルトラC並みのコースは面白いが、日本人でもした人がいるのだろうかと思ってしまう。ただし、今年の試験では結構ここから出ていた。Googleマップを使ってたどってみるとそれなりに旅行しているようで面白い。
あと試験にはあまり関係はないと思うが、「ブラタモリ」は面白いので見るようにしている。陽水の脱力感に満ちた音楽も魅力である。自己採点で83点であった。

<歴史>
昔から歴史は好きだったので4月くらいから政治、経済関係のところを中心に勉強を始めていた。パンダの日本史とかいう坪田塾のサイトをYou tubeでみつけて、これは1回10分以下でわかりやすかったので結構聞いた。たぶん高校の定期テストレベルくらいの内容と思われる。例えば【日本史】鎌倉(1) 鎌倉幕府の成立、【日本史】鎌倉(2) 御恩と奉公、財政基盤など。4月生なら5月くらいに授業を受けることになるが政治史はほとんどで出ないことと明治くらいまでしか過去出ていないことと文化史とか観光に関係のある都市の知識などが出ることがわかった。今までやってきたことが無駄であると思わないが、その後、勉強内容を切り替え、というか余裕がなかったので山川の資料集の写真(試験はモノクロだが人間の視覚はカラーなのでカラーでないと覚えられないし、文字は覚えにくい上にすぐに忘れてしまう。)で覚えるようにした。あとは過去問をやって(選択肢も目を通すようにした。)ハロー通訳アカデミーのホームページでは過去問と解答がでているのでこれは役にたった。地理や一般常識のようには毎年新しく覚えなければならないものが増えてゆくということはないので去年のような問題であれば地道にやっていけばとれると思う。自己採点では90点だった。

<一般常識>
これは6月に授業があり、勉強の仕方がわからないまま流されていたので後回しになり、正直かなり苦戦した。教材の一問一答集はわかる問題がほとんどなく、単語集並みの消化不良を起こしたが(?)例によって丸暗記は役に立たないので、本屋の公務員のコーナーの時事問題のところにあった1年分のダイジェストの雑誌の特別号みたいなものを買ってきてこれを引きながらノートに書いていった。結局それを試験直前の8月の夏季休暇に一夜漬け並みに叩き込むことになってしまった。これもテキストをネットで調べて勉強する以外できなかった。8月は会社の長期休みにあたっていたので時間はとれたが朝から勉強を始めると夕方には完全に頭が飽和してしまって何も入らなくなる。しかたがないので夕方3時くらいに1時間くらい仮眠をとると人間の頭はよくできていて一度記憶が整理されるようだ。自己採点では73点だった。

3.2次試験対策

Nigel先生の質問内容は突拍子もないもので大変役にたった。「力士がはげて髪がゆえなくなったらどうなるか?」とか「浅草の仲見世のお土産物の質はどうか?」とか不思議なものが多かった。実際の二次試験では茶室を選択したが、プレゼンでは躙り口から入って中がとても狭いことと、わびさびと関係がある点とか、利休が秀吉を呼んだ時に朝顔を全部きってしまって一輪だけ茶室にいけた。シンプルで洗練された美意識に基づいているなどを話した。試験官がイギリス人でなぜか私にいろいろ質問してきて、「茶室はなんでそんなに狭いのか?」からはじまり、「紅茶と緑茶はなにがちがうのか?」と言われたので、「発酵させていないでフレッシュだがやや苦味があるけれどスイーツも食べるからだいじょうぶ」と答えたら、「日本のスイーツと欧米のスイーツは何が違うのか?」と言われたので、「欧米のスイーツは卵と小麦粉をほとんどの場合使うが、日本では特に卵は使わない」と答えた。その試験官は老紳士で受け答えから日本について相当の知識をもっているらしかった。
私にいろいろ質問して誘導し、私の答えをひとつひとつ確認しているように見えた。
あと他の人も同じだと思うが50個くらい英語でまとめの文章を作った。ただ、覚えるようなことをしても覚えられないのでストップウォッチをつかって試験の2週間くらい前から練習した。が、うまくしゃべるのは難しかった。試験の1週間前に2回ほど富士通訳ガイドアカデミーの2次セミナー(面接の講座)を受けて今年はだめかもしれないと思った。が、なんとか終わった。
まな板の上の鯉のようなものだった。

4.これから受験される方へのアドバイス

私の場合、会社に勤めながらガイドをすることは許されないので、ボランテイアでもいいから続けようと漠然と考えていて、とりあえず新人研修を受けることにした。そこで出会った先輩のガイドの方々からさまざまなアドバイスをいただく。「佐々木さん、ガイドはもっと笑顔が必要よ?もっと笑って?」といわれて少々閉口した。カスタマーサービスという職業上、クレーム処理とかお金が絡む交渉ごとが多く、英語を話すときには真顔で神妙に話すのが習慣になっていた。自分ではあまり、気がついていなかったのだが、それが自分本来の顔なのか?外向きの仮面のようなものなのか区別がつかなくなっていた。それでも無理にひきつった笑いを浮かべ、一日が終わるとどっと疲れがでた。実地練習もあったが2次試験に通ったくらいでは話をしてもぎこちないし、しゃべり続けることはできない。なによりも外国人は疲れていて彼ら自身がしゃべりたくない場合を除いて微妙な間が空くことをひどく嫌う。海外出張中など外国人と一日中、一緒にいる機会がそれなりにある。欧米人だけでなく、日本以外のアジアの人たちも例外ではない。うらやましいとは思わないが彼らはずっとしゃべり続けられるという稀有な能力をもった民族のようである。
そんな中で新人研修を受けてみて、ガイドの人たちに特有のオーラがあることに気がついた。服装とか七つ道具というか持ち物もどことなく似ていて表情や動き方をみると、言われなくてもなんとなくガイドであることの想像がつく。それをホスピタリティに溢れているというような通俗的な言葉で表現してよいか迷うところだが、基本的には面倒見のよさというものがベースにあって、もちろん仕事の半分以上はガイディングというより、旅程管理上の仕事というか段取りに忙殺され、タイムキーパーのように動くことで相当なストレスがかかるように思うが、そうはいってもどう考えても好きでないとやっていけないという表情を感じる。ある人が「ガイドをやっていてよかったことが51%で苦労だらけでつらいことが49%ですけど、私はガイドが好きでやめられません。」と言っていた。そしてその人は、「ガイドは人を相手にしている職業ではあるが、仕事をしている最中はいつも一人で、ある意味孤独であり、仕事が終わったとき、コーヒーを飲みながら休憩をとるときには、笑顔はすべて忘れる。それでいていろいろな面で縦のつながり横のつながりが重要でガイド仲間は大事である。」と言っていた。
試験のための勉強をしているときは目先のことを処理するのに精いっぱいで、漠然とガイドは何をするのかあまり情報も入ってこないし、あまり考えない方がモチベーションを維持するという点では幸せなのかもしれない。もう昔のことでほとんど記憶にないが、その点では大学に入ったあとのことは何も考えない大学受験に似ている。今の自分がガイドという職業に対してどうつきあっていくのかはまだよくわからないし、4月から会社での仕事は幸運なことかもしれないが増える一方なので、そちらの方が益々忙しくなる。いつのころからか私は人の一生は良くも悪くも歩き続けることのように思い始めていた。歩き始めたのがいつのころからだったのか、それがいつ終わるのかは私たちには知らされていない。それでも見知らぬ道を歩いて行かなければならないあてのない旅のようなものかもしれない。

5.富士のよかったところ

ストイックにまじめにやっているところ。
アットホームなところ。
あとは本文中に書いたところ。